衣葡林 長安乱れ花 くわだて

 

【第1話】

中国の後漢の末期(西暦189年頃)、董卓(とうたく)という男がいた。
後漢王朝を事実上の滅亡に追いやり、三国時代の幕開けを導いた一世の梟雄である。
悪知恵に掛けては右に出るものがないほどの男であった。
長く地方官をつとめ、異民族鎮圧にめざましい活躍をしたため、近衛軍司令に起用され,軍功によって更に前将軍に昇進した。
189年、霊帝が没すると、大将軍何進(かしん)らが宦官誅滅の計画を立て董卓らを都に呼び寄せた。
董卓は軍兵三千を進め、洛陽郊外にいた少帝と陳留王を迎えて洛陽に乗り込み都を制圧した。
更に朝政を独裁し、皇帝の廃立まで行うなど傍若無人にふるまった。
やがて袁紹(えんしょう)を盟主とする反董卓の連合軍が挙兵すると、董卓は洛陽を焼き払って長安(ちょうあん)への遷都を強行し顰蹙を買った。

そんな彼を密かに暗殺すべく機会をねらっていた皇帝司徒の王允(おういん)という男がいた。
彼は考えた。

「董卓という男に、今真っ向から軍を進めて勝てる男はいないだろう。何しろあの軍勢だし、天下無双の呂布(りょふ)が側近にいる。ここはひとつ秘策を練らねば……」

董卓は豪気に見えて存外用心深い男、男の間者が忍んでも見つかって血祭りに上げられる可能性が高いと考えた。

「ここは可哀想だが、我が娘、衣撫林(いぶりん)を行かせるより他にはあるまい。歳はまだ二十歳だが武術の腕は確かだし、都の内情にも詳しい。危険ではあるがこの方法しかあるまい」

王允は我が娘を危険に晒すことに、涙ながらに断腸の想いで決断した。

早速、衣撫林を呼び事情を話した。
天下のため、世のため、董卓を必ず倒す必要があること。彼は天下でも名高い梟雄であること。失敗すれば死は免れないだろうと言うことも……。
これが親子の永久の別れになるかも知れないと、涙ながらに語る父を見て、衣撫林は王允の願いを快く引き受けた。

「お父様、必ずやり遂げて見せます。ご安心ください」
「頼むぞ、衣撫林。この役目危険じゃがお前しかいない。不憫だが許してくれ」
「そんな悲しい顔をしないでください。きっとあの憎き董卓めの首を掻き切って参ります。楽しみにお待ちください」
「頼んだぞ、衣撫林。気を付けてのう」

衣撫林は父に別れを告げ早速、長安に向った。

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衣撫林は城内にうまく紛れ込んで一か月。
周りの者に信用を築くため、ひたすら真面目に何食わぬ顔で働いた。
董卓は天下でも名高い好色家であり、好みの美女は常に食事運搬係とし、更にその中でも特に気に入った女性を側室に抜擢していた。
そんな董卓の目にいつしか止まって、食事運搬係となった衣撫林に、声が掛かるのは時間の問題であった。
それもそのはず、衣撫林はスラリと背が高く、愛くるしさと可憐さを兼備えた絶世の美女であった。

「そなた、名は何と申すのか?」

董卓は顎ひげを撫でながら淫靡な笑みを浮かべて衣撫林に質した。

「衣撫林と申します。城内のある方のご紹介でご奉公に参りました」
「そうか、そうか。よい女じゃのう。歳はいくつじゃ?」
「二十歳にございます」
「おお、そうか、そうか。どうじゃ?わしの側に上がらぬか?可愛がってやるぞ?」
「いえ、滅相もございません。私のような不つつかな者が殿のお側になどとは、恐れ多いことでございます。大変嬉しゅうはございますが、とても私目にはそのお役目勤まりませぬ」
「わっはっは!いやいや、長安広しと言えども、そなたほどの器量の女はそうそうおるまい。まあ、よく考えておいてくれ。わっはっは。」

衣撫林は董卓にただならぬ好意を寄せられたことに戸惑いを感じた。
本来ならば、彼に好かれ近づける機会が増えたことを素直に喜ぶべきだろう。
しかしその一方、衣撫林の心には、ある一線以上は踏み込まれたくない処女性というものがあった。
と言うのも、二十歳になった今もたった一度の恋しか知らず、以来、男には指一本触れられたことがなかったのだった。
衣撫林は、持ち前の美貌にもかかわらず、日々父を助け政務に明け暮れ、時間があれば得意の拳法の鍛練に余念がなかったから、これといった男性と巡り会う機会がなかったのはやむを得なかった。

衣撫林は考えた。
側室となるということは、あの毛だらけの獣のような董卓に、身体の全てを蹂躙されるということである。
そう考えるだけでも背筋が寒くなる思いがした。

(何とか、董卓の寵姫になるまでに彼を殺さなければならない……)

衣撫林は食事係という立場を生かし、毒を盛ろうと考えた。

(腕には自信はあるものの、武器で近づいても絶対に成功するという保証はない。彼の腕も並みではなかろうし。やはり毒を盛ることが最も殺せる可能性が高い。うん、それしかない)

 
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