クリスマスローズ 第13話

【第13話】

茫然自失に陥ったイヴリンは、ぼんやりと魂が抜けたかのようにただ立ちつくしていた。
その視線は宙を彷徨い、うつろで瞳は輝きを失っていた。
昨夜の悪夢のような出来事も、明日以降先々のことも何も考えたくなかった。
打ちひしがれ考える気力も失ったイヴリンではあったが、ひとつだけ気掛かりなことがあった。
それは俊介のことであった。
彼とはクリスマスイヴを二人で過ごそうと約束していたのに果たすことができなかった。
彼は今頃どうしているのだろうか。
とめどなく熱い涙が頬を伝った。

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イヴリンのマンションで彼女を待ちわび一夜を明かた俊介は、明け方マンションを後にした。
テーブルには水分を失ったクリスマスローズの花束がしおれ掛けていた。

俊介が家に着く頃、携帯が着信を告げた。
イヴリンからであった。

「イヴリン、どうしてたの、昨夜は。オレずっと待ってたんだよ、君の家で。電話しても繋がらないし」
「ごめんね、俊介、連絡しなくて。撮影がうまく行かなくて何度も撮り直しをしてたの」
「ふうむ、そうなんだ。スタジオに電話をしたけど、繋がらなかったよ」
「え?ああ、あのう……スタジオから移動して別の場所で撮ってたの。俊介に電話をする暇もなかったの。ごめんね」
「そうだったんだ。かなり疲れたろう?ゆっくりと休んでね。お休み……」
「また電話するね。お休みなさい……」

俊介には真実を告げたかった。喉まで出かけていた。
だけど言えなかった。
彼を失うのが恐いから、イヴリンは精一杯の嘘をついた。
作り話を彼は信じてくれただろうか。
いいや、信じてもらえなくても仕方がない。
今のイヴリンにはそのように言うより他に方法がなかったのだから。

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それから2日後、俊介の元に一通の封書が届いた。

(誰からだろう?差出人が書かれていない)

俊介は少し訝しく思ったが、封を切ってみることにした。
中からは数枚の写真が出てきた。
俊介は顔色を失った。
それらの写真はすべてイヴリンで、あられもない恰好で男と交わっているではないか。
作為的であったと思われるが、写真はすべて彼女の絶頂時を捉えたものばかりであった。
相手の男の顔の部分にはモザイクが施していある。
合成写真ではないかと疑ってはみたが、どうもすべて本物のようだ。
写真には日付が入っていた。
20××年12月24日……25日……

(あのクリスマスの日だ……)

相手は、そして差出人は一体誰なんだろうか。
そしていったい何のために俊介に送りつけてきたのか。

(むむっ……イヴリン、君のことを信じていたのに……)

送付してきた人物の特定はできないが、イヴリンが見知らぬ男性とあのような破廉恥な行為をおこなったのは紛れもない事実である。
俊介は信じていた女性に裏切られた口惜しさで胸が張り裂けそうだった。

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俊介はポケットから携帯を取り出し慣れ親しんだ名前をコールしようとしたが、しばらく考えた後掛けるのをやめてしまった。

(いや、やっぱり電話するのはよそう……自分が惨めになるだけだ。イヴリンはオレを裏切った。会う約束をしていたクリスマスイヴに他の男に抱かれた。それだけではなく、行為の様を撮影して俺に送り付けて来た。オレはイヴリンを見損なった。そんなヤツだと思っていなかった。。信じていたオレが浅はかだった。どうせオレはしがないバンドマン、スターのイヴリンと釣り合いが取れるわけないさ。つかの間の夢をありがとうよ。さようなら……イヴリン……)

俊介は旅行カバンに荷物を詰め込んでいた。

(東京ともおさらばだ。故郷に帰ろう。田舎で別の仕事を探そう……)

俊介はマンションの管理人に簡単に事情を述べマンションを後にした。
そして一路東京駅へと向った。

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「もしもし、イヴリンかね。この前はおつかれだったね。早速だが、明後日14時から君がMCを務める予定の歌番組の打合せをしたいんだけど来てくれるね?」
「いいえ、出演のお話はお断りします。社長の顔はもう見たくありませんので。それから事務所も辞めさせていただきます。」
「な、何だと!?出演を辞退すると?しかも事務所も辞めたいだと?そんなこと言っていいのか?私はあの夜の悶え狂う君の写真を持っているんだよ。」
「脅迫する気ですか?好きにバラ巻けばいいでしょう。どうせ落ち目の人気歌手・人気モデルですから、大したスクープにはならないと思いますわ。」
「くっ、くそ、開き直りおって……」
「用件はそれだけですか?もう電話切りますよ。」
「あ、ちょっと待ってくれ……いや、何とか出演をしてくれないと困るんだが……」

(ガシャン)

イヴリンは社長の言葉を最後まで聞かず受話器を下ろした。
そしてすぐに俊介の携帯に電話した。

「ああ……イヴリンか……」

俊介は東京駅に向かう途中だった。

「俊介、この前はごめんね。今から会えないかしら。話がしたいの。」
「話を?今さら何を話そうって言うの。オレは今東京駅に向ってるんだ。故郷に帰ろうと思ってね。君とはさよならだよ。」
「え~~~っ!東京駅に、って、ま、まさか、冗談でしょっ!?」
「冗談じゃないよ。本当に今向かっているところでもう直ぐ着くよ。」
「ちょっ、ちょっと待ってて!私、今から東京駅に向うから!!乗るのは待って!!」

(……)

急に無音状態になった。俊介が携帯を切ったようだ。
イヴリンは着の身着のままでバッグだけを持って家を飛び出した。
表通りまで行き1台のタクシーをひらった。

運転手には、料金をはずむから少し無理をしてでも東京駅まで突っ走ってくれ、と頼み込んだ。
運転手は驚くべき依頼に一瞬目を丸くしたが、イヴリンのただならぬ様子に同情したのか、彼なりに精一杯クルマを飛ばした。

東京駅に到着したイヴリンは早速時刻表を見上げた。
俊介の故郷は大阪だ。
おそらく新大阪駅まで行くだろう。
イヴリンは携帯をかけた。
向うから聞き慣れた低い声が聞こえて来た。

「俊介?今ね、私、東京駅に着いたの。あなたは今どこにいるの?」
「ええっ!ここまで来たの!?オレは今15番線のホームにいるんだ。博多行きに乗って新大阪まで行くつもりなんだよ。もう直ぐ発車するんだ。11時56分発だ。」
「ええ!?11時56分発!?そんなぁ~!もう時間がないじゃない~!今すぐ行くから待ってて~!」

イヴリンは腕時計を見た。
時計の針は11時51分を指している。
急いで入場券を買おうとしたが2、3人並んでる。
詫びながら事情を告げると並んでいた客は快く順番を譲ってくれ、何とか入場券を買うことができた。
イヴリンは一目散に自動改札を走り抜け、急ぎ足で階段を駆け上がった。
息を切らしながらようやく15番線ホームに辿り着いたが、運悪く新幹線“のぞみ”は発車した直後であった。

「はあはあはあ……あぁ、間に合わなかったぁ……行っちゃったぁ……俊介が行っちゃったぁ……」

イヴリンはがっくりと肩を落とし、小さくなっていく新幹線を見送った。
溢れる涙を堪えることができない。

「俊介……どうして……どうして行っちゃったの……私を置いてどうして行っちゃったの……」

その時、イヴリンの肩を叩く者がいた。

(ん?だれ?)

イヴリンはふと振り返ってみた。
そこには優しく微笑む俊介が立っていた。

「う、う、うっそ~~~!しゅんすけぇ~~~!新幹線に乗らなかったの!?」
「そりゃ当然だろう?イヴリンを残して行ける訳ないじゃないか」
「俊介ぇ~~~!だ~いすき~~~!!」

ホームは次の新幹線を待つ人々で賑わい多くの人達が見つめていたが、イヴリンは周囲の視線を気にすることもなく俊介の胸に一目散に飛び込んだ。
イヴリンの瞳からはとめどもなく涙がこぼれ落ちる。
そんなイヴリンをしっかりと受け止めた俊介は頬に熱いくちづけをした。
唇は頬から唇へと移動した。
くちづけはイヴリンの頬伝う涙が混じりしょっぱい味がした。

「イヴリン、もう君を離さないからね……」
「私だって二度と俊介から離れないわ……」

大晦日の0時過ぎ、時は一瞬止まってしまった。
そして……
時は再び動き始め、ふたりは新しい年に向かって歩き出した。

【クリスマスローズ 完】

 
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この作品は、愛と官能の美学 Shyrock様から投稿していただきました。
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