【前編(2)】
恋愛感情だと気付いたのは、一緒に暮らし出してから。けど、この気持ちはまだ伝えたくない。
今の生活を壊したくないし、もし海斗にその気がなかったら、残りの中学生活が悲惨なことになる。
(けど海ちゃん、鈍いからなぁ…)
小さい頃からの呼び名が無意識にでつつ、魚月は通学路を走り続けた。
別に遅刻ぎりぎりなわけではない。友達がこの時間にでているから、少しでも早く会おうと走っているだけだ。
それに、魚月は運動が好きで、走るのは自慢じゃないが早いほうである。
(あ、いた!)
前方を歩いている、漆黒の長髪。靡くその髪は、本当に艶やかで。
「姫ー!」
そう呼ぶと、少女が振り返る。
大きな茶色い瞳に長い睫毛。色白な肌に少し薄目の唇。背中の中程までの黒髪によく似合う、人形のような顔立ち。
近江陽菜(おうみひな)。
魚月とは中学にあかってからの仲で、大人しくしとやかなお嬢様。『姫』というのは、魚月がつけたあだ名であり、お姫様っぽいなんて単純な理由だ。
「ナツ。おはよう」
「おはよう!」
見かけも性格も正反対な二人だが、入学当初席が隣同士だったことから、他のどの友達よりも仲良くしている。
髪型と性格はボーイッシュな魚月だが、体型はどちらかというと発育がいい。
胸と尻に比べ、キュッと締まったウエストのくびれ。特定の部活に所属していないが、色々な部活の助っ人に駆り出されているために、こんがりと焼けた肌。
引き締まった四肢。男勝りな性格を知らなければ、うっかり声をかけたくなりそうなくらいだ。
対して陽菜は、発育途上なのがよくわかる凹凸の少ない体をしている。
本人は胸が小さいのを気にしているらしく、よく魚月が着替える所を見て「いいなぁ…」と呟いているくらいだ。
魚月と並んでも身長の差はないが、女の子にしては少々背が高いほうである。よくいえばスレンダーなタイプだ。
性格がおっとりしていて気弱だから、魚月はいつも守ってあげたくなるのである。
魚月と陽菜が二人で歩いているだけで、周囲の男子生徒は毎朝いい目の保養をさせてもらっているといったところだ。
「ねぇ、昨日の数学の宿題できた?」
「うん、なんとか」
「ホントに? さっすが姫。頼りになる~」
「見せるなんて言ってないよ」
「え~」
冗談まじりな楽しい会話。魚月は、陽菜とのこの何気ない日常が大好きだった。
教室に入ると、もう何人か友達が集まっている。
「おはよーっ」
「あ、おはよぅなっち~」
明るく人見知りをしない魚月は、クラスのほとんどの女子と普通に話していた。
陽菜は、いつもそんな魚月の後ろにいる。席につきながら、話しかけてくる他の友達に笑顔で返す魚月。
これが日常。けれどその日常が、簡単に壊れようとしていた。
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