第24話
膣壁に染み入る愛しい体液
美桜は下腹部を意識した。
挿しては抜かれるペニスの感触を、脳内にまで浸透させる。
そして恥肉の交わりに酔いしれる未熟な膣膜に命じた。
「うぅっ、すごい……絞めつけて……ふぁっ」
思わず翔吾は呻いていた。
抽送するペニスを根元から亀頭まで扱かれ、充填させた男の滾りに点火させられる。
(ビクビクしてる! 美桜のお腹の中で、翔くんのオチ〇チンが脈打ってる!)
いよいよ射精されるのだ。
処女を卒業したばかりの膣腔に、男の精が解き放たれるのだ。
「美桜、もう……俺……」
翔吾は腰をズンと突いた。
男と女の体液でヌラヌラと光るペニスを、美桜の膣奥深くへと埋めた。
恥骨と恥骨が痛いくらいにぶつけ合わされる。
「あは、ひはぁっ! 美桜ぉ、感じちゃうぅっ! ふぁ、はあぁっっ!」
「ング、ハァッ!」
ケバケバシイ煙の渦に巻かれながら、美桜は鳴かされた。
翔吾も低く唸ってから、腰の筋肉を震わせた。
どぴゅ、ぴゅる……どく、どく、ぴゅるるぅぅっっ……
熱くて勢いのある白濁液だった。
それが、絡みつく膣肉にまぶすように噴射された。
初めてのセックスにちょっぴり傷ついた粘膜が、ヒリヒリとした痛みをこっそりと運び入れてくる。
(美桜、俺たちはこれからも一緒だからな。結婚して、美桜を嫁にして、孫に囲まれて金婚式を迎えるまで、絶対に離さないからな)
(翔くん、わたしだって離さないから。金婚式をして、おじいちゃんとおばあちゃんになっても、二人でエッチなセックスをするまでずっと一緒だから)
死と隣り合わせのベッドで、愛する二人は心の会話を重ねた。
けだるくて放心しそうな両腕で、お互いの背中を抱き合っていた。
ほんの一瞬でしかなかった抱擁の時を、数分に、数時間に共有しあえて、初体験の儀式の余韻に浸り合っていた。
そして、勢いを失い萎みかけたペニスをトロトロの膣穴に収めたまま、二人揃って身体を起こした。
(サキコ、これでいいのね?)
美桜は激しく咳き込んだ。
痛みで麻痺しそうな瞳を、壁際に座るフランス人形にぶつけた。
その彼女の背中を分厚い手のひらで撫でさすり、翔吾もまた無言の目を追いかけさせる。
(二人で結び合えば……二人で後悔をしないエッチをし合えれば……これで……)
バチバチと燃え盛る火花の音もドア越しに聞きながら、美桜は念じた。
通じているのか、肌を寄せ合った翔吾も真顔で目を閉じた。
『うふふっ、とってもスケベなセックスだったよね。見ていたあたしまで恥ずかしくなっちゃった』
呼び掛けて、強く念じて、その声はいつもの調子で返されてきた。
『死』というタイムリミット目前の世界で、小悪魔な余裕を醸して、美桜の脳内にささやいてくる。
(女の子なのに覗き魔して、まさかそこでオナニーとかしてないでしょうね?)
『うふふっ、どうかしら? それよりも美桜、もう少し慌てた方がいいかも』
(慌てるって、どうするの? サキコの魔法で、この火事を消してくれるんじゃないの?)
『魔法かぁ……美桜ってさ、あたしのことを凄く買ってくれているのね。でも……うふふっ』
(なんか歯切れが悪いわね。まさかだけど、他にもわたし達の協力が必要……なんてこと、ナシだよね?)
美しい少女と、愛らしいフランス人形と。飛び交う会話は、誰の耳にも拾えやしない。
燃え尽きようとする命の危機を前に、それはサラリとした余裕を垣間見せるやり取りであった。
同性なのに愛し合い、心を通じ合わせたことのある、女の子どうしのヒソヒソ話のようでもあった。
『美桜、あたしを抱えてちょうだい!』
そのサキコが、急に声のトーンを変えた。
美桜の問いをスルーして、強めに命じた。
『翔吾は、そこのドアの前に立たせて』
矢継ぎ早にサキコは、また命じる。
「翔くん、お願い」
余裕ぶたせた顔色を美桜も消した。
全てを話さなくても理解し合える。
そんな調子で、肌を合わせていた翔吾には、短く簡潔に。
「わかった」
驚きもしなければ、怪訝そうな顔も作らない。
美桜に促されて、翔吾は素直に動いた。
全裸のまま這うようにして進み、どうにか扉の脇に辿り着く。
『美桜、こっちよ……そのまま真っすぐ……』
もはや、まともに目など開けていられない。
殺意のある煙を掻い潜るようにして、美桜はサキコのナビゲートに従った。
ベッドから床上へ、滑り落とした身体を四つん這いにさせる。
まだまだ火照りを忘れない肌を引きずるようにさせて、目指す壁際を目指した。
そしてもがくこと数秒、片手でローボードを探り当てると、力を振り絞り身体を起こした。
「ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ……全知全能な時の迷宮の女王様も、ハァ、ング、こっちの世界では、案外頼りにならないのね」
『全知全能は余計よ。あたしはね、時の無限迷宮に魅入られた哀れな人形。でもね……』
美桜が口にした皮肉りのジョークに、サキコは自虐めいた言葉で応じた。
しかし、その美桜の両手に抱きかかえられた瞬間、可憐なフランス人形はあっさりと奇跡を起こした。
「あ、呼吸が楽になって……」
「お、目が痛くないぞ」
痛みを覚える美桜の肺に、空気が循環される。
粘膜を削られ赤く腫らした瞳を、翔吾は繰り返し瞬いては潤していく。
濃密な煙の層に変わりはない。
けれども、まるで二人をガードするように透明なバリアーにでも包まれている感じである。
(サキコって、ホントに意地悪ね。わたしや翔くんがこんなに苦しんでたのに、どうして今まで魔法で助けてくれないのよ?)
『ハア、ハァ……こっちの世界ではね、体力の消耗が激しいのよ。無限に存在するマナが、あたしの魔力を封じようとするの』
(ふーん、そうなんだ)
経験など御免な試練を与えられ、翔吾の分も含めて嫌味を言ったまでの話。
それなのに、サキコからはファンタスティックな言い訳を返され、美桜は短く鼻を鳴らした。
そして、客室ドアの脇からこちらを眺める翔吾に顔を当てた。