【第6話】
チルの高貴な美しさと街の女にはない立ち振る舞いに大いに興味を示し、すぐに懐いて来た。
「うわ~!きれいな人だぁ~!まるでお城のお姫様みたい~。ねえ、名前はなんて言うの?私はマリアンヌよ♪」
「はじめまして。私は、え~と、チル…いや、チルチルというの。よろしくね」
「ねえ、お姉ちゃんって、お兄ちゃんの恋人なの?」
「ええ?うふふ……違うわ」
そこへシャロックが口を挟み、さきほどの経緯を妹に語って聞かせた。
マリアンヌはそれに聞いて、
「そうだったんだ。危ないところだったんだね。助かって良かったね、お姉ちゃん。お兄ちゃんがいたら、安心だよ~。いっそ、お兄ちゃんのお嫁さんになったらいいのに~」
「バカ、余計なことを言うな」
シャロックはマリアンヌを叱った。
「しかしマリアンヌちゃんの言うとおりだわ。お兄様はとても強い方だから安心だね」
シャロックはチルがまだ食事を済ませていないことを知り、急いで残っていたシチューを暖めた。
チルは嬉しかった。
城から出て来て、初めて味わう家庭の味。
それは城の贅を尽くした料理とは比べようもなかったが、心から美味しいと思ったのであった。
チルは空き部屋を一部屋与えられた。
激動の一日に相当疲れたのであろう、寝床についてすぐに深い眠りに落ちて行った。
チルが目を覚まし、台所に行くと、マリアンヌがせっせとデコレーションケーキを作っていた。
「まあ、美味しそうなケーキだこと。今日は誰かのお祝いなの?」
「うん、そうなの!今日十月二十一日はお兄ちゃんの誕生日なの~」
「ええっ~!?」
チルは驚いて大声をあげた。
「どうしたの?お姉ちゃん?」
「あのね、十月二十一日は私も誕生日なのよ。すっかり忘れてたわ。十九才になるの」
「え~っ!そうなんだ。チルチルはお兄ちゃんと同じ誕生日なんだぁ~。それじゃ、今日はいっしょにお祝いをしなくては~」
「ありがとう~。嬉しいわ。いっしょに祝ってもらえるなんて」
チルは昨年の自分の誕生日を思い出していた。
多くの来賓を招き、盛大に舞踏会が開かれ、話題の中心であった。
その時に招かれていたパパス王子に、知らない間に見初められたのだった。
チルは当時のことを振り返り、今ここにいることを不思議に思った。
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