【前編(4)】
白井百合子は二年前この小学校にやってきた。
昔から子供が好きだった。なんて理由じゃない。両親が教師で、仕方なく教職につかされた。
実際は、子供に囲まれて勉強をしているだけで、全く充実感のない生活。
それでも、虐待だ虐めだと騒がれないように、とりあえず仕事は熟している。
単調な毎日。恋すらする暇がない。二十五になって、まだ恋愛らしい恋愛をしたことがないなんて、おかしいのだろうか。
教壇にたち、夕方の誰もいなくなった教室を見回す。そしておもむろに、スカートを下ろす。
日課となった教室での自慰を始めたのは、去年の終わり頃であった。
無意識だった。あまりにもセックスレスな生活が続き、ストレスも貯まっていたのだ。
教室で、生徒がみんな帰った後、床に座り込んで自慰をしていた。
いつ誰がくるかわからない公共の場所で。聖職者の立場を忘れて喘いだ。
気がつけば、警備員の見回りの時間ぎりぎりまでやっていたのだ。
それが日課になり、単調で刺激のない生活に、ほんの少しの刺激を与えるための楽しみになっていた。
(けど…慣れてきたわ…)
だからかいつの間にか脱ぐようになっていたのだ。
下半身をさらけ出し、足を開く。ここに誰か人がいたら…そう想像すると、秘所が濡れて来る。
「あんっ…ぁ…」
甘ったるい悲鳴をあげながら、百合子は胸をもみしだく。
下半身に伸びた手が、股間の茂みを撫で回し、割れ目に指が忍んでいく。
「ぁあっ…あぅ…」
クリ○リスはもう硬く勃起していて、少し指で押すだけで痺れるような快感が走る。
思わずそのまま指を動かすと、腰が面白いくらいに揺れた。
クリ○リスを摘んだり転がしたり。誰かがきたら、きっと人生すら終わるような露出行為。
それでも、快感を感じるのは事実だった。
(私…露出狂なのかしら…)
違う。
ただ単調な毎日に堪えられなくなっただけ。
好きでもない仕事をし続けた重圧に、呑まれてしまってるだけ。
恋人でも出来たら、こんな惨めなことしなくて済むのに。
「あ…もぉ…ダメェッ…」
全身を痺れるような快感が襲い、そのまま一気に達してしまう。
「ぁ…ふぅ…」
そのまま、体がゆっくりと床に落ちていく。
あっという間だった。別に溜まっている訳でもないのに。
(毎日してるのに…どうしてこんなにすぐにいっちゃうんだろ…)
やっぱり相当スキモノなのかもしれない。
嫌だなぁ…なんて考えながら、百合子は腰をあげる。
(あ…片付けないと…)
座り込んだ時、教壇の上のものを床に落としてしまったらしい。
明日の授業でも使うのだ。
スカートをさっさと履いて片付けよう。そう思った時だった。
「スゲェいい体してんな。アンタ」
「ッ?!」
誰かいる。見られた。
百合子は、思わず服で体を隠し、声の方に顔を向けた。
そこには、銀色に近い白いに、黒いメッシュの入った短い髪の少年が立っていた。
歳の頃は中学生くらいだろうが、見方を変えれば小学生にも見える。
「だ…誰なの…?」
ここの生徒ではない。だが見られてしまった。けして誰にも見られてはいけないこの事実を。
もしもばれたら…。
「俺? 鬼人(きりと)」
ニヤッと少年が微笑む。あどけない表情だが、瞳が琥珀色なせいか、やけに大人びている。
「いい体だなアンタ。ちょっと虐めたくなる」
「ぉ…大人をからかわないで!あ…ぇと…」
彼を怒らせてはいけない。何とかこの場を切り抜けないといけない。
「あの…」
「アンタ俺の玩具にならねぇ?」
少年・鬼人はそう百合子の言葉を遮った。
「…何ですって?」
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