夢少女 第1話

ume-ti

【第1話】


(あなたとはこれっきりね……)

そんな切ない一言がメールの結びに記されていた。

「あ~あ、また振られちゃった。オレってどうしていつも振られてしまうんだろうなあ?すぐにのぼせ上がってガツガツしちゃうのがいけないのかなあ?」

吾郎はそう言いながら珍しいことにじっと鏡を覗き込んだ。
男が鏡を覗くのは、よほどのお洒落男子じゃない限り、髪を梳かすときと髭を剃るときぐらいのものだろう。

「オレってそんなに悪い男じゃないと思うんだけどな~。どうしてこううまく行かないんだろう……。女の子には優しいつもりだし、う~ん、やっぱり口下手だからかな~」

板垣吾郎……すでに二十七歳になるが、いまだに女性と付き合って長続きしたためしがない。
ある程度は進展するのだが、ほとんどが二、三か月で壊れてしまう。

いったい何が原因なんだろうか、と考えてみるのだがよく分からない。
自分の欠点と言うものは、案外自分では見つけにくいものなのかも知れない。
狭いワンルームマンションで、ひとり愚痴ったり、ため息をついている自分が情けなく思えてくる吾郎であった。

「チェッ……つまらねえや。今日はせっかくの休みだと言うのにデートの予定も無しか。振られたからしょうがないんだけど……。遠出する気はしないから近所の商店街でもぶらついてみようかな」

吾郎はやりかけていたスマホゲームのアプリを閉じ、無地のTシャツとスキニージーンズ姿で散歩にでかけた。
梅雨の合間の僅かな晴れ間、雨が続き少し気が滅入っていたが、散歩をすれば少しは気持ちも晴れるだろう。

「胸にポッカリ穴が開いた感じだな。あ~あ、失恋するってなんかわびしいなあ……」

会社など吾郎の身辺にこれと言った女性がいなかったため、吾郎は出会いサイトを利用し『下手な鉄砲も数打ちゃ当たる』と張り切ってメールを出しまくった。
その甲斐あってついに条件ぴったりの恋人も現われた。
恋はうまく実るかに思われたが、連日残業ばかりでデートにも誘えない状態が続いた。
当然相手はそんな吾郎の事情など知るはずもなく「熱意がない人」と考え、まもなく破局が訪れた。

車社会の到来による大型店舗の郊外化が、商店街を衰退化させた最大の要因と言われているが、吾郎が暮らす地域の商店街は人通りも多く活気に溢れていた。
魚屋の親父の威勢のいい掛け声、気さくに呼びかける八百屋の兄貴の親しみやすさ、時として街の喧噪は元気をくれる。
何か買うわけでもなく、ただブラブラと歩いているだけで楽しい商店街っていいものだ、と吾郎は思った。
先を急ぐ男がゆっくりと歩いている吾郎を速足で追い抜いていく。
アーケードも途切れたのでぼちぼち戻ろうかと思った頃、どこからか吾郎を呼び止める女性の声が聞こえてきた。

「ちょっと、そこのお方……」

吾郎が振り向くと、三十歳前後の神秘的な雰囲気の女性が彼を見つめていた。
頭には紫色のヴェールをかぶっていて占い師のような風貌だ。

「え?オレ、ですか……?」
「はい、あなたですよ」
「オレに何か用ですか?」
「あなたには幸運が訪れます」
「えっ?」

見知らぬ占い師風の女性からの突然の言葉に吾郎は唖然とした。
女性の机を見ると『夢と現 真実と虚偽 チル占星術』と書かれた布が垂れ下がっていた。

「もう一度言います。あなたには良縁が待っています」
「な、なんだって?オレに良縁だって?」
「あなたはまだ未婚ですね。あなたには素晴らしい結婚相手が見つかります」
「そ、そんなこと急に言われても……どうしてオレにそんなことを?」
「私は占星術師のチルといいます」
「そりゃ嬉しいけど……にわかには信じられないな~」
「それは無理もないことです。だけどこれは真実なのです」
「真実…ですか?」

吾郎は狐につままれたような表情で占星術師を見ていると、彼女はおもむろに小さな石を取り出した。

「これは『真実石』といいます。これを持っていると理想の女性が向こうからやって来ます。これをあなたに差し上げます」

吾郎は小さな石を手の取り、じっと見つめた。
どう見ても何の変哲もないふつうの石のようにしか見えない。

「これってただの石ころじゃないの?これを持っていたらマジで彼女ができるのですか?」

占星術師は慈愛に満ちた微笑を浮かべ小さくうなずいた。
吾郎は言った。

「あ、分かった!彼女ってもしかしたら、あなたのことではありませんか?」
「あはははは~~~まさか。違いますよ」
「オレのことを気に入ったとかじゃないのですか?」
「まあ、何とおめでたい方なんでしょう。違います、違います。私ではありません。別の方ですわ」
「なんだ、違うのかあ、あなただったらよかったのに、はっはっは~」
「まあ」

「ところで、代金はいくらですか?」
「お代は要りませんわ。もし次に占いをさせていただくことがあれば、その時にでもいただきます」

占星術師は品の良い微笑をたたえた。
吾郎はペコリとお辞儀をして占星術師の元を立ち去った。

 

 

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