自分自身の股間を開いて男を待つ少女

 

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第5話
抱きしめ合って、絶望の足音を聞いて……

そんなハーモニーはいらない。
けれども美桜と翔吾の閃きは、ぴったりと重なり合っていた。

「け、煙よ!」

仰向けのままの美桜が、天井にへばりついて流れてくる白い靄を見つけた。

「こっちからも、煙だ!」

うつ伏せのままの翔吾が、床を這い進むように流れる灰色の靄を指さした。

「落ち着くんだ、美桜!」

「う、うん……」

ベッドの中で二人は、身に降りかかる危機を感じていた。
次第に濃くなる煙の中で、どちらともなく顔を寄せ合い束の間のキスを交わした。

「美桜、下着なんてなしだ。服だけ早く!」

そう言うなり翔吾はベッドから飛び降りた。
口元を手のひらで覆いながら、外部通路へと繋がる客室ドアへと向かった。

「あ、ベルが鳴ってる。火災警報器の音だよね」

素裸の上にワンピースだけ纏わせた美桜が、翔吾の後を追う。
顔を歪めて、片耳に手のひらを当てながら、汗ばんだ男の背中に身を隠した。

「開けるぞ」

翔吾の指がドアノブを回す。
カチャリとロックが外れる音がして、木目調のドアが押し開かれていく。

「わぁっ! すごい煙……」

隙間の角度が拡がるに伴い、濛々とした煙の渦が流れ込んでくる。
美桜がそれを見て怯え、翔吾はその煙の層に顔を突っ込んでいく。

「うっぷ、ゴホ、ゴホ……だめだ! もう、炎が上がってる……廊下が一面、炎に包まれてる!」

そして一瞬の後、バタンと荒々しくドアは閉じられていた。
激しく咳き込み、額からは玉のような汗を浮かべた翔吾が、絶望の言葉を吐いた。

「そうだ! 電話よ!」

脳内の非常ベルもけたたましく鳴り響いていた。
時間がが無い。
そんな中、思いついた答えを美桜が叫び、翔吾が駆けていた。
飛び跳ねるような勢いで、壁際に設置されたローボードに辿り着く。

「落ち着いて、翔くん」

「あぁ、任せておけって」

翔吾は腕を伸ばした。
クリーム色をした固定電話を掴むと耳に押し当てる。
震える指を縦横3列に並んだダイヤルキーに乗せる。

「えっと、内線は9番よ……ゴホ、ゴホッ……」

「待ってろよ、美桜。9番と……」

咳込みながらも美桜がサポートする。
翔吾が気合を込めてボタンを押した。
祈るような顔つきで、受話器を耳に押し当てる。

『ププゥ……トルーゥ、トルーゥ、トルーゥ……♪』

3回、4回、5回……無機質な呼び出し音が続く。
6回、7回、8回……絶望的な心に支配されながら、翔吾と美桜の額を冷たい汗の粒が垂れた。

『トルーゥ、トルーゥ……カチャ……』

(繋がったの?!)

両手の指を組み合わせた美桜が、涙目のまま顔を上げた。
二人して諦めかけた10回目のコール音の後、確かに受話器を取る気配が……

「もしもし、フロントですか?! 火事です! 火事なんです! 部屋番は807! 807! 急いで! 早く!」

翔吾は絶叫していた。
受話器を口に咥えるほどひっつけて、二人の身に迫る危機を必死の声でぶつけていた。

「おい、なんだよ?! なんとか返事しろよ!」

それなのに、どうしたというのだろう。
やっとの思いで電話は繋がったのに、翔吾の呼び掛けには反応がないのだろうか?

「翔くん……?」

美桜は翔吾を呼んだ。
ぴくりとも動かない愛する人の背中に呼び掛けた。

『……待って……いるから……』

その時であった。
無言を貫いていた受話器から、微かに声が聞こえた。
男ではない、女? しかも幼い少女のような?
それはなぜか、ベッドに座り込む美桜の耳にまで届いて。

(なんなの? なにか違う……怖い……)

命に関わる危機なのに、美桜は別の恐怖を感じていた。
そして見るまでもなく、翔吾の表情からも。
それでもうなずき合い、二人して出来る限り耳を澄まして、むせる呼吸を二人して我慢させて……

『うふふっ、二人が来るのを……あたしは……待っているから……』

翔吾が放心したように受話器を落とした。

もはや脱出する術はない。
その中で部屋に忍び込む煙の色が変わった。
白いモヤから黒ずんだ灰色の渦へと。

「逃げられないの、わたし達?」

「消防が来て、ここから助け出してくれない限り……多分……」

なにもかも夢。
そう、わたしは今怖ろしい悪夢を見ている。

項垂れて力尽きたように翔吾は膝を折っていた。
愛する人のそんな姿を目の当たりにして、美桜は首を振った。
ほっぺたの肉をギュッと抓って、それから……

(翔くんって、なんか凄いよね。予知能力とかあるのかな。でもそれだったら、このホテルが火事になるとか、ちゃんと予言してくれたって……ホント、イジワルなんだから)

「美桜、何してんだよ?」

シュル、ファサっと衣擦れの音がして、翔吾は顔を上げた。
真っ白な全裸の素肌を晒した恋人の姿に、涙でしょぼつかせた瞳を見開いていた。

「急いで! 翔くんの……おぉ、オチ○チンで……美桜のアソコ……ううん、オ、オマ○コを突いて……セックスして」

密度の濃い煙の中で、初めて口にした恥ずかしい単語であった。
美桜はベッドの上でしゃがむと、足を大きく開いてみせる。
右腕を股間へと伸ばすと、陰りの中に潜んだ紅い恥肉の溝を拡げた。

「はははっ、さすがは俺の彼女だ。いや、俺の愛する嫁だ。美桜……美桜……」

翔吾も着ていたモノを引き剥がしていた。
筋肉質な裸体を晒すと、美桜が待つベッドへと向かった。

「翔くん、やっとセックスだね」

「待たせて済まなかったな。そうさ美桜、やっと俺たちは結ばれるんだ」

中断されて間延びした愛の交わりを再開させようと、翔吾は両腕を伸ばした。
こんな時なのに、意地らしく微笑む少女の肌に指先を触れようとさせて……

ドンッ! ボンッ!

それは短い衝撃音であった。
懸命にガードしていた客室ドアが、もぎ取られるように飛んだ。
雄叫びを上げた炎の竜巻が、爆風を引き連れて室内を蹂躙する。
食べ終えたばかりの二人前のカレー皿が木の葉のように巻き上げられ、あっという間に炭化しながらガラスの窓にぶち当たる。
光り輝く夜景を目指して、厚いガラス板をひび割れさせて、まさに一瞬のことであった。
粉微塵にされたガラス片と何かが、バラバラと音を立てて空中へと飛散した。

 

 

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