【前編(2)】
呆然とする少女達の中で、最初に我に返ったのは薫子であった。
「あんた何なのよ! 邪魔しないでよ!」
薫子の手が妖子の肩を突き飛ばし、妖子の体が壁にあたる。
「ぉっと…。いたたた…ひどいなぁ…ただトイレ使いにきただけなのに…」
「ふざけないで! あんたもこういう目に遭いたい訳!?」
足元で呆然としている美香の頭を、薫子が蹴る。
呻く美香を見ても、別に興味なさそうに妖子は頭を掻く。
「遭いたい事はないっすけど…別にあたしゃ、そういうのどうでもいいタイプなんで」
「なっ…」
馬鹿にしたつもりは本人にはないのだろうが、その余裕たっぷりの妖子の態度が、薫子には気に障ったようだった。
顔を真っ赤にして、あしらわれた事で傷ついたプライドを外に出さないようにしていた。
「…薫子、どうする?」
ミチルは、明らかに機嫌の悪くなった薫子に問う。
さりげなくトイレを使い出す妖子に、腹が余程たったのだろう。
美香を見ることもなく、「帰る!」とトイレから出ていった。
ミチルたちは、それを追い掛けるのだった…。
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翌日から、薫子のイジメの標的が妖子に変わった。
バシャン。
と、水がかけられる。
教室に妖子が入った瞬間だった。
「やだぁ、ずぶ濡れじゃない」
「教室なのに」
「お漏らしでもしたのぉ?」
ミチルを始めとした女子達の嘲笑が、妖子に飛ぶ。
勿論それは薫子の命令だった。
入った瞬間、バケツいっぱいの水をかけたのだ。
だが当の妖子は、床を見たまま息を着く。
「もうすぐ先生来るんだから、授業出来なきゃ困るっしょ。雑巾って、どこでしたっけ?」
気にも止めないような妖子の声に、薫子の眉間に皺が寄った。
「あんたが使っていい雑巾なんかないわよ。自分の服で拭くか…床舐めたら?」
そう、薫子の冷たい声が飛ぶ。
するとすかさず、ミチルが舐めろコールを始めた。
クラスの男子や、薫子とは別のグループの子達は、黙ってそれを見ている。
女子は虐められたくないから。
男子は、薫子が誰かを虐めるのが面白くて見ているのだ。
「舐めるじゃ、時間かかるっしょ。仕方ないなぁ」
不意に妖子がランドセルを降ろす。
すると中から、真っ黒な布で作った雑巾が現れる。
それで、苦もなく掃除を始めたのだ。
それは序の口に過ぎないイジメだった。
しかし、たいていはただの強がりだ。
いつかは泣く。
皆がそう思っていた。
だがそれが強がりでないことはすぐにわかった。
服を破かれても、教科書をボロボロにされても、妖子は「仕方ないなぁ」と片付けてしまうのだ。
薫子の苛立ちは、ピークに達っしていた。
「ちょっとミチル! あんた何とかしなさいよ!」
「なんとかって…けどいつもは、これくらいで泣き入るからさぁ…」
「…あいつ呼び出して、トイレの水飲まして見よっか」
不機嫌そうな薫子の言葉に、全員が息を飲む。
それはやりすぎだと、誰かが言ってくれないかと。
しかし逆らう勇気のあるものは、誰もいなかった。
「今日の放課後呼び出して。それでもダメなら、裸にして帰らせてやるからっ」
携帯をいじりながら言った薫子の命令は、もはや絶対だった…。
しかしこの時誰かが止めていれば、あんなことにはならなかったかもしれない。
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呼び出された妖子は、いつものように飄々としていた。
「用事ってなんすか? そろそろ帰りたいんすけど…」
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