第11話
博幸とのお花見 その1
4月6日 日曜日 午後2時 岡本典子
河添に抱かれてから一週間が経っていた。
「博幸。あなたがいなくなって、もう半年だね。季節がどんどん進んで、ほら、もう桜が満開。窓を開けているから遠くに見えるでしょ? 市民公園の一面のピンクが……」
私は寝室のベッドに腰を降ろしたまま、手にした写真立てに話しかけていた。
目の前に楽しい何かがあったのかな?
それとも、内心から溢れる嬉しさなのかな?
写真の中の博幸の笑顔は、キラキラと輝いていた。
迷いも戸惑いも感じない、眩しいくらい純な笑顔だった。
「……この前ね、隣の地区で再開発の工事が始まったのよ。あっという間に更地にされて、今では足場を組んだ高層マンションがずらりと並んでる。でもね、大丈夫よ博幸。この地区の再開発は、まだ始まっていないし、始めさせないから。私が……典子が、阻止してみせるから! あなたと私の宝物の、このお店も絶対に守ってみせるから! だから、安心して。
ふふっ……今日はそんなことより、二人で……お花見を楽しみましょ。典子ねぇ、博幸を悦ばせたくて……色々と……考えたんだから……」
どうしちゃったのかな?
話しながらどんどん顔が赤らんで、火照ってきちゃう。
途中までは博幸の目を見て話せていたのに、話し終わる頃には、もう新婚ホヤホヤの夫婦みたいに目を伏せているなんて。
でも、そろそろ準備しないとね。
私は、ベッド脇にあるサイドテーブルに写真立てを置いた。
ベッドに座る私がよく見えるように、角度も調整する。
隣にスマホを立て掛けた。
レンズを私に向けて、動画撮影のアプリを立ち上げる。
やっていいのよね?
本当にしていいのよね?
ずるくて卑怯な典子の良心が、責任を回避するように問い掛けてくる。
私は答えを示すように、写真立ての博幸に負けないくらいの笑顔をつくってあげた。
「今日は気持ちいいね。さ、博幸。お花見……始めようか?」
ベッドの上で正座したまま、シャツのボタンを全部外した。
今日のお花見に合わせた桜色の袖から、腕を引き抜くようにして脱ぎ去った。
背中に両手を回してブラを外す。
そして、気持ちがグラつく前に片づけちゃおうと、足を崩してスカートの中に両手の指を這わせた。
ウエストのゴムを引っ張るようにして、スルスルと足の上を滑らせていく。
足首から抜き取ったショーツをブラと一緒にして、シャツの下にそっとしまう。
私は、博幸とスマホのレンズを交互に見ながら、スカート1枚の姿になっていた。
横座りでおへそを隠すように、両手を前でクロスさせて……
「お、驚いた博幸? で、でもね。こんな気持ちのいい休日……もっと楽しまないとね。
あなたも感じるでしょ? 窓から吹き込む春の風と柔らかい日差し……そうよ、典子もそれを……す、素肌で……ありのままに感じたいの」
我ながら、笑うしかないくらいの苦しい言い訳。
でも、それでいいのよって自分を納得させないと、博幸が目のやり場に困っちゃうでしょ。
だから何でもない顔して、日光浴するように胸を反らせるの。
そうして、全身が火照るのも太陽のせいにして、雲の隙間から日が差し込むのを待ち続けるの。
あとは……窓の外の景色をちょっとだけ気にして。
スマホのレンズをちょっとだけ気にして。
私は、博幸を見つめるときだけ笑顔をつくるの。
「今日の典子はねぇ。博幸が好みだったスカートを履いているのよ。ひざが完全に露出しちゃってるブルーのフレアースカート。ほら、覚えてる? 私が『ちょっと露出気味かな?』って迷いながら、お店に出たときのこと……
博幸ったら『いいよ、全然大丈夫だよ』って言っておきながら、鼻の下をちゃっかり伸ばしていたでしょ。私、ちゃーんと見てたんだから。でもね、今日は特別なの。もっと、もっと……サービスしてあげるね」
私は両足に力を込めると、お尻をベッドに密着させたまま膝を立てた。
そのまま膝の内側に手のひらをあてて、外側へと開いていく。
シーツの上を足の裏が滑るように左と右に分かれて、冷たい春の風がスカートの中でクルクルって渦を巻いた。
やっぱり、自分から見せるのって恥ずかしい。
思わず『お願い博幸、見ないで』って、声にならない可愛い声で何度もお願いしてた。
でも、続けないといけないの。
今日は博幸との楽しいお花見なんだから……