少女がチンピラに絡まれ身体を?!

 

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第14話
降りかかる電車騒動


8月20日 水曜日 午前9時  水上千里

「ふあ~ぁぁぁぁ」

私は電車のつり革に掴まりながら、小さく欠伸をした。
あ、断っておくけど、アノ声じゃないわよ。

実は昨日の朝から一睡もしていないの。
というのも、この病院に勤め出してから、初めての昼勤と夜勤の連続勤務をこなしたから。
因みに今は出勤帰りの電車の中ってこと。

でも、いい天気よね。
8月の陽差しって、ギラギラした太陽を思い浮かべるけど、私はこの季節が好きだな。
なんだか心まで解放的になって……
このまま海まで行って、ちょっとエッチな水着で浜辺を散歩したい気分♪♪

でもねぇ、現実は厳しいな。
今日も夜勤シフトなの。

このままアパートに帰ったらバタンキューで、夕方からまたお仕事。
とても海には行けないな。

こんな可哀そうな私が、今出来ることと言えば?
そうよねぇ。降りる駅までもう少し時間があるから、このまま昼寝じゃなくて朝寝でもすることかな。
私はそう決めると、人目も憚らずにウトウトを開始した。

「あんたたち! なにやってるのよぉっ!」

なに? なにかあったの?!

威勢良く啖呵を切った若い女の子の声に、私は夢の中から連れ戻された。
そして、車両内が重苦しい雰囲気に包まれているのに気が付いた。

もう、人がいい気持ちで睡眠してたのに。
私は霞んだ目を細めながら、威勢のいい声の主を探した。

あそこにいる……

私が吊革にぶら下がっている所から、そうね……10メートルくらいかな。
隣の車両との連結部付近に、どう見ても違和感のある体勢の男女の姿がある。

ジーンズにTシャツ姿のラフな感じの少女が、若いサラリーマン風の男性を庇うように立っていて、その相手は男が3人。

茶髪で首に何かのタトゥーをした背の高い男に、あとの二人は金髪で、こちらも腕や肩にタトゥーをして、どちらかというとずんぐりな体型をしている。
そのうえ3人揃って、耳や鼻に趣味の悪いピアスをいくつもひっつけて……
結論として、こんな時間から暇を持て余していそうな、ドウデモイイ人たち。

「よぉ姉ちゃん、威勢がいいなぁ。こんな歯ごたえのない男は放っておいてさ、俺たちと仲良くしなーい。はははは……」

「……くっ、そんなのお断りよ。誰がアナタたちなんかと……大体、3人がかりでたったひとりを虐めるなんて、卑怯よ! 最低よ! 男だったら清々堂々と、一対一で勝負しなさいよ!」

「くぅーっ、言ってくれるねぇ。今時珍しい強気な姉ちゃんだな。おいっ……!」

真ん中にいたリーダー格らしい背の高い男が、後の二人に目配せした。
なにか考えがあるのかしら。
だけどこの男、首筋にサソリのタトゥーをした、ちょっとまともじゃない目をしている。

まずいわね。
こういう連中は、くだらないプライドだけはしっかりと持っているから、厄介なのよね。

事の重大さに気が付いた私は、じっと推移を見守る他の乗客達を見回してみる。

一生懸命、音楽に夢中になろうとヘッドフォンを付けている人。
うつむいたまま、耳を閉ざすように震えている人。
そして大多数が、眠くないのに寝ている人達。

その他に……?
あれっ? 今、レンズが光ったように思ったけど気のせいよね。

そうこうしているうちに、男達と若い女の子の間がどんどん詰まっていく。
おまけに手下らしい二人は、威嚇するように他の乗客を睨みつけている。

ついに背の高い男が、面白半分に少女の胸を掴んだ。

「キャアァァッッ! なにすんのよ! このスケベッ!」

甲高い悲鳴が車内に響いて、緊迫感がますます増していく。
女の子は咄嗟に胸の前で両手をクロスさせると、ジャンプするように半歩後ずさった。

もう一刻の猶予もなさそうね。
私は覚悟を決めると、男達に向かって歩き始めた。

「アンタ達、見苦しいわよ。こんな子供相手に大の男が3人がかりで……恥ずかしいと思わないの?」

こういう時は、なるべく声のトーンを落とし気味に。
そして、ゆっくりと落ち着いた口調で。

「なんだぁ、てめぇ」

手前に陣取る部下らしい金髪の男が、私を睨みつけてくる。

ここで視線を逸らせたら、即負けよね。
私は粋がる3人の目を順番に睨みつけてから、窓ガラスの外に目をやった。

そして女の子の顔をチラリと見て驚いた。
あなたは……?!

女の子の方も気がついたみたい。
頬を赤くしながら驚いた顔をしている。

「なんだと言われても困るけど……私もこの子と同じ女性なのよ。アンタ達も、まさか女に手を出すような恥ずかしい真似はできないでしょう?」

もう少し、あと少しで……
再度、窓の外の景色を確認すると、私の斜め後ろで身構えている女の子に目で合図した。

「おいっ俺達はなぁ、男だろうが、女だろうが関係ない。ただやり方が違うだけだ。やり方がな……ふふふっ……」

そう言うと、空間で何かを掴むように指を動かした。
下品な人……

「そうですか……でも、お生憎さま。私に触れることは、アンタ達には出来ないと思いますから」

「なんだとぉ、人をこけにしやがって! このぉ……おぉっとッ!」

突然、車内がガタガタと揺れた。
粋がっていた男達がバランスを崩した。
電車が駅に停車するために、ポイントを超えたみたい。

「今よっ!」

私の掛け声より先に女の子が動いていた。
あっという間に、車両連結部分の扉の先へとその身体を消していく。
あの子は走っているんじゃない、飛んでいるんだ。
そう思うくらい、一瞬の出来事だった。

もちろん私も続いた。
そして女の子が隣の車両に向かって走り抜け、私も走り抜けた。
後は電車が止まると同時にホームに飛び出し、駅員を呼ぶだけ。

……?!

まだなの……?
いつもより停車に時間がかかっている。
早くしてくれないと……やっぱり……!
ガタンッて音がして、男が3人怖い顔でこっちに向かってくるじゃない。

やばいよ。ほんとに……ついてないなぁ。

私は無念そうな顔をした。
隣にいた女の子も、無念そうな顔をしている。
そしてもうダメって覚悟したときに、これって奇跡……?!

「♪♪♪……♪♪♪……♪♪♪……」

突然、車内に大音量の着メロが響いてきた。
全ての視線が、音量の発信地であるひとりの少女に集中している。
当然、ならず者3人組も……

プシューッ!

手間取っていた電車がやっと停車し、扉がガタッという音を残して開いていく。
助かったかも?

私と女の子はホームに飛び出した。
続いて音量の主の少女も飛び出して来る。

「駅員さ~んっ!」

私達は、ホームの上で大げさに手を振った。
結局、あの男達が降りては来ることはなかったけど。

 

 

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