愛液で濡れたソファーに寝そべる少女

 

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第21話
初体験~その後……


8月11日 月曜日 午後10時30分  早野有里

取り敢えず、危機は回避されたみたい。

でも、あの人大丈夫かしら?
あまりにもの咄嗟の出来事で、わたしにも何が起きたか良く分からないの。

「よくも、この私に……」

ぼそっと呟くような声が聞こえて、そーっと振り向くと、憎悪の炎に染まった両目が……!

やっぱり、大丈夫じゃないみたい。
今さら、ごめんなさいって謝っても、許してくれそうもないよね。
もしかしたら、わたし……殺されるくらい犯されるかも……?!

でも、動けないよ。
……体力も限界。
恥ずかしいくらいアソコが丸出しで、それなのに、太ももを閉じ合わせる力も残っていない。

「ご気分は……いかがですかっ!?」

ほら、来たっ!
気のせいだと思いたいけど、語尾が苛立っている。

わたしは残りの体力を振り絞って、何とか股だけでも閉じ合わせた。

だけど、もう無理。
後は、ひたすら謝ってなんとか誤魔化そう。

……
……? ……?
……ん?
まだ、何もしてこない……?
わたしはもう一度、そーっと振り返った。

……? ……?
うーん?……?
……大丈夫……かな。
あの人の自慢の息子。シュンとうつむいて小さくなっている。

「安心なさい。今日はこれ以上、何もしません。それよりも、あなたの拘束を解かないといけませんねぇ」

副島はわたしの視線に気が付いたのか、自信喪失気味の息子を片手で隠してみせた。
百パーセント信じたわけじゃないけど、選択肢も残っていない。

「少し、触りますよぉ。いえいえ、その気はありませんから」

男の両腕が、肩と腰の下に差し込まれる。
思い出したくない嫌な感覚が肌を刺激して、思わず小さく叫んだ。

「だからぁ何もしません。信じて下さいよぉ」

わたしの身体は、ソファーの上でひっくり返されていた。
顔が座席部分に押し付けられていた。
きっと美しい背中のラインと、剥き身のようなお尻に、男の両目が釘付けになっているのに違いない。

やっぱり、襲われるかも? 
……まさか、お尻の方じゃないよね?

脳裏にいけない想像が流れ込んできて……これって、過剰な自己防衛?
でも、身体は勝手に尻たぶの筋肉をキュッとすぼませて、太ももの隙間を埋めてしまう。

「我ながら、ほれぼれする縛りですねぇ。ほら、ここを引っ張ると……見事なものでしょう」

シュッ、シュー……シュー、シュッ……

生地の擦れる音と手首に訪れる解放感。
両腕に久々の自由が戻って来た。

……?
……と、いうことは?

「終わりましたよ、有里様」

何も起きないの?
わたしのお尻に触らないの?

良かったという気持ちと、なんでよって思うイケナイ心……
でも、身体は勝手に緊張を解き、お尻の筋肉を緩ませた。

……パッシーンッ!

「ヒィーッ! イヤーッ!」

肌を打つ乾いた音と、乙女の悲鳴!
お尻に拡がる惨めな痛み。
副島が不意打ちのように、わたしのお尻を叩いた。

卑怯よ、今頃叩くなんて。それも思いっきりっ!

「あっ、これは失礼。つい、うっかり……ははははッ」

わたしはうつ伏せのまま、キッと睨みつけて……すーっと目を逸らしていた。
背筋に冷たいものが走る。

顔は笑っているのに、目は笑っていない?
冷たい……そう、初めて会ったときのあの目……

これ以上、目を合わせるべきではない。
わたしは慌てて顔を伏せて、縄に傷めつけられた手首を愛おしそうに撫でさすった。

そこには、深く刻み込まれた何重にも渡る縄目の跡……
剥がれた皮膚の下から、血がじっとりと滲み出している。

「ごめんね……」

じっと見ていると無性に悔しくなって、マブタからはまた水滴が流れ落ちた。

「あなたの手首の痛々しさ……そそりますねぇ。2、3日で傷跡が消えてしまうのが、実に惜しい。どうせなら生傷の絶えない肌をさらすのも、これまた一興ですがね……ククククッ……」

いかにもこの人らしい、サディスティックな言葉。

わたしは心をなだめて、傷ついた手首を男の性的な視線から逃すように、ふくらみの下に仕舞い込んだ。

「ところで、いつまでそんな姿を晒しているのですかぁ?いい加減服を着ないと、風邪を引きますよぉ」

副島は脱ぎ捨てた下着を身に着けながら、うつ伏せのまま動こうとしないわたしを、興味深そうに見下ろしている。

「ほっといよ。行為が終わったのなら、わたしには構わないで! もう少し……こうしていたいの!」

「ふふふっ……変わったお嬢さんですねぇ。ただ、お身体には注意して下さいよぉ。何といっても、あなたの行為次第で、お父さんの寿命が変動しかねませんから……」

なにを言われようと、今はこうしていたいの。
鉛のように重たい手足も休ませてあげたいし、その間に、火照った肌をエアコンの風が心地よく冷ましてくれそうな気がするから。

でも、これは言い訳かも……
本当は、男に見られながら下着を身に着けるのが恥ずかしいから。

行為の後、ベッドからそっと抜け出して服を身に着ける彼女……
それを知っていながら、背を向けて寝た振りをする彼氏……

女の子なら、こういう男性に魅かれると思うけどね。
この人には、絶対無理だろうな。

それとね。さっき気が付いたんだけど……わたしって、お洩らししたのかな?
腰の下に小さな水溜りがあって、それが太ももにひっついて気持ち悪い。
アンモニア臭? ううん、ちょっぴりエッチな……

「有里様、そのまま寝ていても構いませんが、今晩はどうされます?」

またなにか言ってる。
そんなに裸で寝ているのが、気になるのかしら?

……?……今晩……?
ダメ、頭がもやもやしてて、今は何も考えられない。

「なんなら、タクシーを呼びましょうか? 今からだと、日付け変更線前には帰れると思いますが……」

「……」

「どうされます!」

返事のないわたしに、副島が苛立っている。

今晩って言ったよね。
だけど、お母さんには……会えないよね……
こんな顔を見せたら……笑顔を作っても悲しませることになるかも。

「……あのぅ、このまま泊まってもいいですか?」

「それは、構いませんが……」

副島は、わたしの心を掴みかねているみたい。
やっぱりこの人、女心が分かっていない。

「まあ、いいでしょう。分かりました。そのように手配致しましょう」

「ありがとう……ございます」

なぜか、お礼の言葉が素直に出なかった。

「後のことは、あなたを案内した男にでも聞いて下さい。連絡しておきますので、しばらく待ってもらえれば姿を見せると思いますから。ではお先に、有里様……」

時間を気にしているのか?
それとも機嫌が悪いだけなのか?

副島はやや早口に要件だけ伝えると、背を向けたまま手を振った。
そして、わたしを置き去りにして部屋を去っていった。

「あ~ぁ、行っちゃった……」

扉が閉まり静けさを取り戻した応接室に、わたしだけが取り残される。

散々傷めつけられたのに、心には薄もやのような安堵感だけが広がっている。
屈辱、恥辱、恐怖、もっといろんな感情が湧き起ると思ったのに……
もっともっと辛いはずなのに、涙が出てこない。

どうして? どうして……?! 
もう、涸れてしまったの?
テレビドラマだったら、悲劇のヒロインはこんなシーンで号泣するのに、涙がないとそれだって出来ないじゃない。

「ふふふっ……ははははっ……」

な~んか、おかしい。

急にバカバカしくなってきて、そうしたら睡魔の顔がこっちを見ている。

やっと終わったんだし、ちょっとだけ休もう。
わたしは、気だるくて少し心地よい気分で両目を閉じた。

 

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