美少女を男達が覗き見

 

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第2話
闇の足音


「コツコツ……」

いつもより早めにバイトを終えたわたしは、ひとり家に向かって歩いていた。
まだ午後8時過ぎというのに、シーンと静まりかえって猫の鳴き声もしない通りに、足音だけが寂しく響いている。

「お腹すいたな……」

わたしはごまかすように独り言をつぶやいた。
なぜかって? ちょっと怖いから。

その理由は、この商店街のせいだと思う。
まず、道路幅が狭いわね。
車2台が交わすのに苦労するくらいだから……

そのせいで、建物が両サイドから押し寄せて来る感じ。
これって昼間は特に気にならないけど、日が暮れて暗くなると結構威圧感があって不気味なのよね。

そして2番目が、俗に言うシャッター通りというやつ。
道路を挟んで20軒ほどお店屋さんが並んではいるんだけど、その半分くらいは年中シャッターが降りている。

わたしが子供の頃はもっと賑わっていて、お肉・お魚・お野菜、ついでに日用品も、みんなこの商店街で済ませていた。
よくお母さんに連れられて夕ご飯の買い物をした覚えがあるけど、今ではこの有様……
まあそんなことは、偉い人にまかせて早く帰ろう。

わたしは、なにかに追い立てられるように歩くスピードを速めていた。
そしてあの角を曲がればもうすぐ我が家、という所まで来て、黒い外車が道を塞ぐように停まっているのに気が付いた。

あれ? あの車なにをしているんだろう?

この辺りは街灯が全然ないから、頼りになるのは家の明かりか月明かりくらい。
当然、中に誰が乗っているのか全く分からないけど、こういうのってなんだか不気味……

まさか通り掛った瞬間、突然ドアが開いて可憐な娘がアレ―ッ!て……ことはないでしょうね。
やだな。そう思っただけで歩く速度が急に遅くなってしまったじゃない。

ここは慎重に……前を真っ直ぐに見て……
そう、よそ見をせずに歩くのが一番かも。
目の視野から黒い物体が消え去るまで我慢我慢。

もう少し、後1メートル……

心の中で実況中継しながら歩いたけど、結局なにも起きなかった。
……なんか、拍子抜けって感じ。

それよりも、緊張したせいで全身汗まみれ。
これって冷や汗っていうやつ……?

わたしは、角を曲がって車が見えなくなるのを確認すると、バッグからハンカチを取り出して、額や首筋に押し当てるようにして拭い始めた。
そして、あたりをきょろきょろと見回してからシャツの襟首を掴んでパタパタと……
ついでに下の裾からもパタパタと……

でも、やらないよりマシってくらいの効果かな。
ここは早く家に帰ってシャワーを浴びるのが一番みたい。

わたしはそう自分に言い聞かせると、もう汗が出るのもお構いなしに帰り道を急いだ。


7月18日 金曜日 午後9時

「あれが早見有里。今回のターゲットの一人です。どうです。なかなかの美少女でしょ? ね、伯父さん」

私はルームミラーに映る男性に声を掛けた。
男は少女の消えた角を目で追い満足そうに頷くと、疲れているのか目を閉じた。

少し癖のある髪を整髪剤で整え、上品な生地のスーツに袖を通した恰幅の良い紳士。
これが傍目に見た評価かもしれない。

事実、彼はこの街に本社を構える巨大金融会社の社長だ。
たった一人で今の会社を起こし、わずか10年でこの地域を代表する企業に育てあげた経営センスには、目を見張るものがある。

今やこの街の行政・司法でさえ、この男には一目置かざるを得ない。
当然、闇の住人達も……

だが、私は知っている。
ここまでのし上がる間に、裏で何が行われたのかを……

欲しい物を手に入れるためなら、手段を選ばない残酷なまでのやり口。
金・色・暴力、この男の前では法律さえ役には立たない。
お陰で、これまでどれだけ多くの人が泣かされてきたか……
確かに汚いと思うことも多々あるが、割り切ってしまえば、これが現実。
これが世の中かもしれない。

そんな彼の元で、私もここまで幾度かこの両手を汚してきた。
だが、これまでの自分の生き方には悔いは無い。
数少ない身内の一人として、また忠実な部下として、この男を支える今の仕事に不満もない。

「……車を出してくれ」

両目は閉じているが眠ってはいないようだ。

私は行き先を確認せずに車を発進させた。
ここまでの長い付き合いで、この男が何を考え、どうしたいかぐらいは分かるつもりだ。

それよりも、明日から忙しくなる。
心はそれを期待と捉え、高まる鼓動が抑えられなくなっていた。

 

 

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