弟が姉にセックスの指南?

 

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第9話 盲目な策士

「ねえ、孝ちゃん。どうしてあんなことを言ったの? お姉ちゃん……孝ちゃんを信じてたのに……」

「……」

わたしは廊下を歩きながら、孝太に訊いた。
応接室を後にして、階段を昇りながら。そして、また……

だけど孝太は答えてくれない。
わたしの手を痛いほど握り返したまま、まるで目が見えているかのように真正面を見据えて大股で歩いていく。



「うちもねぇ、アンタが思うほど裕福じゃないんだよ。その上、遥香と孝太。アンタ達のようなごくつぶしが二人も増えたんじゃ、これから先、益々苦しくなるってもんさ。
特に孝太。お前は目が見えないんだからね。これからも養育費ばかり増えるのが目に見えているだろう? それでなんだけどね、遥香。お前は女なんだから、今晩からはその身体で男の相手をしてもらおうじゃないか。家計の足しにセックスで恩返しも悪くないだろ?」

「ひどい、孝太の前でそんな話。いくらお義母さんでも、言っていいことと悪いことがあります!」

「ちょっと、お姉ちゃん」

「孝太は黙ってて!」

わたしは、お義母さんから信じられない話を持ち掛けられて頭に血が昇っていた。
止めようとする孝太に向けても語気を荒げると、お義父さんのグラスを回し飲みしているお義母さんに、喰って掛る勢いで言葉を続けた。

「どうしてわたしが……そのセ、セックスなんて。絶対にお義母さんの言いなりになったりしませんから。養育費の分は働いてなんとかします。この家を出て孝太と二人で……」

「家を出てどうすんのさ。行く当てでもあるって言うのかい? それにだ。市川家の子供になった以上、勝手なマネは絶対にさせやしないよ!」

これを売り言葉に買い言葉とでも言うのかもしれない。
でも形勢は、どう見たってお義母さんの方が有利。
あの人は、わたしの言葉を想定済みといった感じで目が笑っている。
それに比べてわたしは……

「ふふふっ、面白くなってきたじゃないか。遥香のその目、いいねぇ。キッとして睨みつける表情も実にゾクゾクさせてくれる」

そんなわたしとお義母さんのやり取りを見ていたお義父さんが、口を挟んできた。
わたしはものすごく本気で必死なのに、茶化すようにしてお酒臭い息を吐きかけてくる。

「あなた、こんな生意気な娘にはお仕置きが必要だと思うけど、どうするぅ?」

「別に鞭打ちでも構わんが、千津子。打ち場所は考えてくれよ。大切な商品だ。なるべく目立たんようにケツだけで我慢するなら賛成だが」

「う~ん、どうしようかしら? こういう小娘には、ビシッとオマ○コにお灸を据えるのが手っ取り早いけど……仕方ないわ。それでOKするわ」

お義母さんの顔に残忍な笑みが浮かんだ。
わたしはというと、鞭打ちの単語を聞いた唇がこれ以上の抵抗を放棄させようとする。
それに追い打ちを掛けるように遥香の頭が、無残に傷つけられた弥生さんと皐月さんのヒップを再現させる。
そして、お義父さんが鞭打ちの準備を始めるのか、ドアを開けて誰かを呼ぼうとして……

「待ってください! お姉ちゃんを鞭で打つのだけは許してください」

突然声をあげたのは、孝太だった。

「お姉ちゃんは、僕が絶対に説得します。お姉ちゃんが……その、セックスで男の人の相手をするように、僕がどんなことをしても言って聞かせます。それに僕は……僕はこの家から出たくありませんから。この家にいたら、苦労せずに生きていけるから。だから……」

「こ、孝ちゃん……あなた……」

張り詰めていた心の壁が音を立てて崩れていく。
思わずわたしは、掴んでいた孝太の手を振り払おうとした。
でも、孝太が逆に力強くわたしの手を掴み返してくる。

「キャハハハッ! 実の弟に裏切られるとはねぇ。これは愉快だ。面白いじゃないか、孝太。どんな手を使うか知らないけど、お姉ちゃんが心置きなくオマ○コ出来るように説得するんだね」

「はい、頑張ります。お義母さん」

いつもの甘えん坊の孝太ではない。
声変わりの途中の擦れた声だけど、はっきりとした口調で『お義母さん』って。



「お姉ちゃん、今何時?」

「え、えーっと、1時……50分くらい。それよりも、孝ちゃんあのね」

「ちょっと黙って……誰も……付けて来てないようだね」

孝太は身を乗り出したわたしを押さえると、耳を傾けて廊下の音を探った。
そして安堵したように顔の筋肉を緩めると、わたしの方に向き直る。

「謝るなら後でいくらでもするから。お姉ちゃん、早く荷物をまとめてよ。今なら駅へ向かうバスに間に合うからさ」

「こ、孝ちゃん。まさか……」

真面目で冗談だって飛ばしたことのない孝太が、悪戯っ子みたいにニンマリした顔を作る。
わたしと同じくらいの背丈なのに、その時は一回りも二回りも大きく見えて、心の中のわたしはその胸に飛び込んでいた。
その間に現実の遥香は、超特急で荷物を掻き集めてバックに詰め込んでいく。

「準備できたわ、孝ちゃん。でもまだ明るいし、誰かに見付かっちゃうかもしれないよ」

わたしは白く反射した窓ガラスに目をやった。
陽が暮れてからこっそり抜け出して、どこかの家に逃げ込めばって思い付いたから。
でも孝太の作戦は違った。

「お姉ちゃん、この屋敷の住人って何人かな?」

「えーっと、お義父さんと……働いている弥生さんと皐月さんを入れて5人よ」

「だよね。こんなに広い屋敷でたったの5人。それに僕は匂いで分かったんだけど、あの二人はワインをかなり飲んでたよね。特に僕が従順なフリをしてあげたら更にね。それと、こんな田舎町で町の人に救助を求めるのは危険だと思うんだ。市川の家とどんな繋がりがあるか分からないでしょ」

「孝ちゃん、あなたはそこまで……」

そこに立っていたのは、子犬のように寄り添ってくる孝太ではなかった。
悪い人達から命を賭けて守ってくれる、頼もしいボディーガード。そのものだった。


  

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