【第10章(4)】
それまで黙っていた高科が、その時話し出した。
「おいおい、みんな。それじゃ脅迫みたいじゃないか。藍ちゃんだって仲間だぜ。きっとわかってくれるさ。ね、藍ちゃん。一緒にこの映画、最後までやってくれるよね。」
そう言って藍を手招きし、セットの裏に藍を連れ込んだ。
みんなから見えない場所にまでくると、高科は小声で言った。
「・・・藍ちゃん、ごめんな。藍ちゃんが出来ないって言うのはよくわかる。でも、みんなこの作品に賭けてるんだ。藍ちゃんにとってはただの部活なのかもしれない。藍ちゃんの仕事に比べると、遊びみたいなものなのかも知れないさ。・・けど、みんなにとっては違うんだよ。真剣なんだ。だからあんなきついこと言ったんだと思う。そこを判ってやって欲しい。それに・・・」
「・・それに?」
「俺、ほんとは藍ちゃんのこと、好きなんだ。藍ちゃんみたいなアイドルに、こんなこと言ったって無駄だって判ってるけどさ。でも、その思いがこの作品に詰まってるんだ。藍ちゃんのこと考えれば考えるほど、切なくなってこの作品にぶちまけてきたんだ。だからどうしても完成させたい。」
高科の切々とした告白に、藍はさっき吉田とゆうこが抱き合っていたのを思い浮かべていた。羨ましかったことを思い出した。胸が熱くなっていた。
そして藍は思わず口にしていた。
「・・・わたしも・・先輩のこと・・好き・・・」
そう言い終わらないうちに、高科は藍を抱きしめていた。
藍はその胸に顔をうずめた。そして藍は口を開いた。
「・・・わかりました。・・やって・・みます。」
藍の言葉に高科は「ありがとう」と言うと、すぐに藍の唇に自分の唇を重ねた。
藍はさっきのキスよりもずっと熱い気がした。
そして唇が離れると、高科は明るい大きな声で、
「藍ちゃん、いや藍、頼んだぜ! 俺の言う通りにすれば大丈夫だから。さっ、みんな待ってる。」
二人が元の位置に戻った。高科が、まるで何事もなかったような明るい声で言った。
「藍ちゃん、やってくれるって。さあっ! 撮影開始だっ!」
高科のその一言で、みんな位置についた。
藍は後ろを向いて、もじもじしながら着替えを始めようとした。すると高科がすぐに指示した。
「藍ちゃん、そこじゃないんだ・・ここに乗って着替えてくれる?」
高科のその指示に、伊藤と柴田が机を運んできた。机をウレタンのマットのすぐ前に置いた。
高科の指は、その机の上を差していた。
「・・そ、そんな・・」
藍は言いかけた。が、高科の顔を見るとすぐに机の上に乗った。先程の、セットの裏で言われたこと、その時の高科の笑顔を思い出していた。
(先輩のためにも・・頑張らなくっちゃ・・)
そう思った。
気が付くと、カメラが藍を下の方から狙っていた。明るい照明を浴びて、そんなアングルから、カメラを向けられるのは恥ずかしかった。急に耐えられないほどの恥ずかしさを感じた。
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アブナイ体験とSMチックな官能小説